日本の移民問題の是非を問う ~詳細編~

移民問題を論理的に考える

 読者の方から、移民問題に関して次のようなコメントをいただきました(一部を簡略化して書きます。カッコ内の数字は後述する際に必要なので私が振りました)。

――移民は永住許可なのか、日本国籍を与えるのか、多重国籍を可能にするのか、多重国籍でのメリットとデメリットは何か、など。(1)
日本国籍を与えてもやはり働けなくなったら国に帰ろうという人々も多数いそう。働けるうちは送金と貯蓄で超節約モードとか(笑)国内で消費は抑えちゃいますね。
 某企業に一時、期間限定で働きました。2千人はいる企業で7割はパートとバイト。このうちの3分の2は外国人や留学生。永住許可を持つ外国人もいましたが、みんな超節約モードで生活をし収入のほとんどは送金でしたよ。労働者はあるが、消費は少ない。(2)
また、還付金制度があり所得税と住民税が戻るという仕組み、こりゃひどい。戻ったら戻ったで消費せず送金。
私もしつこいけど、出稼ぎ目的だけの移民は不要だと思います。職種限らず。
 その企業で働く外国人たちは100%の人が、日本は稼ぎに来てるだけ、永住許可があっても帰化できても帰化したくない、こんな国で老後を迎えて墓に入りたくない、でした。――

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画像:http://www.nikkei.com/content/pic/20150903/96958A88889DEBE3E0EBE4E0E4E2E2E1E2EBE0E2E3E7E2E2E2E2E2E2-DSXMZO9129624003092015I00001-PB1-5.jpg

 コメントありがとうございます。自分の意見をちゃんと持ってらっしゃる。こういうことを真剣に考えるのは、とても建設的であり重要なことです。社会で起こっていることを疑問視し、意見し、自分で納得するということが大事だと思います。

 真剣な質問には真剣に答えます。ただし、本当に移民の受け入れの正当性(私は移民の受け入れに賛成)を隙間なく主張するには、膨大なるデータと分析結果を書かなければなりません(書こうと思えば書けますが、本一冊分になってしまいます)。なので、「日本の財政への影響」という部分だけをかいつまんで話したいと思いますが、上記した読者さんの内容と照らし合わせて一つ一つ見ていきましょう。

まずは多重国籍(1)について……。

 日本は多重国籍を認めていません。もちろん私もそんなのは認めません。日本が認めない一番の理由は(とはいっても私の想像)、日本以外の国籍を持った人間が政治に参加してもらっては困るからではないでしょうか。私が知ってる範囲で、やはり参政権を持てなくしている国が多いです。プラス、参政権どころか、公職関係すべてに就職できない。これは普通に想像できることですが、日本の国益に反することを、あえておこなう輩がでてくるかもしれませんし、たいがいそういう者たちは外国から命令を受けていることでしょう。だから、デメリットはあってもメリットはないでしょう(本人にとっては自宅が2つあるようなもので、片方がダメならもう片方というメリットではあるが)。

 私は移民を受け入れるなら、永住者として扱うと前回の記事のコメント欄に書き込みましたが、この永住者になれる条件として、外国籍を喪失させます。つまりは日本国籍のみにする。これは相当な覚悟がいります。だからこそ、日本に来る人間も相当な覚悟を持った人間になるはずです。そしてそれだけではなく、永住者になった以上、一定期間を超えて日本から離れると、永住権が剥奪されるようにします(実際そういう国がある)。

続いて送金(2)について……

 永住者が大事ですが、ここではあえて単純労働者の場合で見てみましょう。まず、確かに送金は問題です。いわゆる「富の流出」ってやつです。日本で稼いだお金が日本で消費されず、移民らの母国へと行く。しかしこれは問題ではあるのですが、大した問題ではありません。なぜか? 送金以上の経済的効果が見込めるからです。

 まず第一。稼いだ金のすべてを送金はしない。当たりまえですよね。すべてを送金したら自分が生活できなくなります。どんな人間でもわずかにお金を手元に残します。そのお金を使い消費する。「そんなわずかな消費じゃ経済効果が見込めないじゃないか!」こんな意見が出るはずです。しかし、注意すべき点は、「消費」ではなく、移民一人による「企業の利益率」。彼らを雇ったことで労働力がアップした会社は利益が拡大し、追加的な税を支払うことになる。ということは国の税収がアップします。

 また、送金先の国というのはたいてい貧しい。貧しいからこそ日本に出稼ぎに来ているという理屈です。ということは、送金以外にも商品を直接送るはずと想像できます。送金先の国が貧しいなら、物が豊富にないからです。つまりは、貿易ネットワークが形成され、商品流通が拡大することで、貿易業者が潤うのです。そしてそこに付随する様々な企業、その企業で働く人間が潤うことになります。もちろん、法人税や所得税も増え、最終的に国の税収アップにつながります

「じゃあ、ガンジーさん、べつに永住者じゃなくてもいいんじゃないの?」ってな質問になるかもしれませんが、日本の国益を考えた場合、経済だけではなく政治も考えなければならないので、永住者として扱うほうが断然いいのです。

移民問題に関する学術的な意見が、人びとに共有されていない現状

 移民問題に関してまず大事なこと。それは「感情的にならない」ということ。しょせん、感情生物「人間」にとってそれは無理な話ですが、やろうとしているのは論理的な議論、「がんばって客観的になろう」と努力する必要があります(客観的、それ自体が主観的ですが、哲学的議論はしません)。

 ネットで、たとえば「移民問題」と検索をすると、それはもう「移民は悪」的な書き込みがわんさか出てきます。それで、人びとはめっちゃ調べるのが面倒ですから、検索結果の上から2~3つだけ見ることでしょう。もっと調べようとする人でも、まあ5つぐらいでしょうか――。それで、「よしOK! 移民問題に関して調べるのはこれで終わり。結果はよーくわかった。つまり、移民は悪だ! ということだ」と結論づけます。たとえばその根拠となったのは、「移民を自由化すれば、大量の中国人が押し寄せて大変なことになる」とかそんな類……。実際なるかもしれませんね。でも、もし政府が妄想で政策を決めたらどう思います? 必要なのは確信できるような分析結果なのです。
 
 逆の場合もありますね。調べた結果、「移民は善だ!」となるかもしれません。それだって分析結果がなければ、たんなる感情から発した妄想レベルなのです(なので、「妄想的に断言し、人びとにレクチャーしている人は、情報不足による判断なのに答えがわかったと思い込んでいるおバカさんです)。

 問題は、「他人の意見を鵜呑みにしてしまっている」ということです。鵜呑みにしない人ももちろんいるでしょう。ですが、実はその人ですら問題がある場合もあるのです。移民問題の是非、つまりは「良いという意見」「悪いという意見」の両方聞いたとします。それで自分は〇〇と判断した、と。それはとても建設的であり、自分の論理力を鍛え、多様な価値観を構築する一助になることになるでしょう。でも、一つ足りません。何が? 自分でデータを見て分析していない、ということです。とはいえ、ほとんどの人びとが研究者ではありません。私だってそうです。だからこそ必要なのは、「データから意見している人の話を聞きましょう」ということなのです。それがプロパガンダから解放される道です。

 裕福な国々への移民制限が解放されると、世界経済は50兆ドルから150兆ドルの利益がもたらされると言われています。また、世界最貧国の人口のほんの5%を裕福な国に移住させるだけで、世界のGDPを大きく上昇させることができるとされるのです。とはいえ、日本に移民が来れば日本人の雇用を奪うでしょう。そして賃金を押し下げるかもしれません。そして怒った人びとは言います。「移民に対する教育や福祉、医療などの給付は税金です。彼らは日本に財政的な負担をもたらします」と。確かにそうだろう、と感じますが、いったいどれだけ詳細なデータに基づいたものなのでしょうか? 疑問です。

 富を増やすための経済原理として世界が採用している「比較優位の原理」というものがあります。この言葉、絶対に覚えてください。絶対ですよ。とてーも大事なことです。以下に少し説明しますね。

比較優位の原理とは?

 比較優位という考え方は、経済学者デヴィッド・リカードによって発見された貿易の大原理です。まずはここで、A国とB国の二つで説明していきます。

A国、B国ともに労働者が200人いるとして……

A国 労働者100人で米を1000生産
B国 労働者100人で米を900生産
→合計1900

A国 労働者100人で自動車を500生産
B国 労働者100人で自動車を200生産
→合計700

すべての合計2600
※A国は米も自動車もB国より生産できる⇒「絶対優位」
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
だったら、A国はB国と貿易せず、自国だけでやったほうがいいのでは?

ここでB国が分析します。

「B国は米を1000分の900(10分の9=0.9)、自動車を500分の200(5分の2=0.4)生産している。つまり、米はA国に対して9割生産できているのに、自動車に関しては4割しか生産できていない。だったら、A国に打診してみよう。『うちは労働力のほとんどを小麦に向けるんで、おたくは自動車に労働力を集中させてみたらどうですか?』と」

 じゃあ、とりあえずはやってみるか、とA国はその提案を受け入れ、それぞれの国でやり方を変えた。

A国 労働者50人で米を500生産
B国 労働者200人で米を1800生産
→合計2300

A国 労働者150人で自動車を750生産
B国 労働者0人
→合計750

すべての合計3050(以前の2600より450も多くなった
※それぞれの国が得意分野に力を注ぎ、貿易によって再配分することで、お互いの利益が高まるようにした。

 現在、途上国は人口過剰であり、先進国は人口不足となっています。これまで、労働力たる人間自体は自由貿易には適用されない(人間の自由な移動)とされてきましたが、この労働力たる人間が生産性の高い地域に移動することで、比較優位の原理に基づき、富を増加させることができるのです。

 一般市民のミクロ的なレベルで言うと、一人で人事、営業、製造するよりは、それぞれの部署に別れてやったほうが断然良い、ということ。これは、日常が自然と比較優位の原則で成り立っているということです。

 そして、移民は生産者だけではなく消費者にもなるので、もちろん需要は多少なりとも増えます。それだけじゃありません。アメリカのIT起業家のように移民が会社を興せば、その会社で働く人材(労働需要)が生まれ、働く人間の所得税、会社自体の法人税とあいまって国の税収が増えます。

移民に対する生活保護? 移民による賃金の低下?

 生活保護、移民がこれを受けてしまっては元も子もないでしょう。でも、これは法律でどうにでもなる。死ぬ気で働くなら働くだろうし(その分、雇用主が助かるし、また国の税収が増える)、働けないのであれば自国に戻るでしょう(税収は減るが、その分福祉のお金を支出しなくてすむ)。

 ここで、移民による労働力の増加と労働賃金の影響について調べたCard(1990)の研究を紹介します。

「キューバ政府が1980年に12万5000人の移出を認めたことに注目した。その政策変更によってキューバからのアメリカへの移民、すなわちマリエル難民がマイアミ市の労働力を7%増加させたが、その前と後でのマイアミと他の都市の間の労働市場の条件がどう変化したかを比較している。カードの研究結果では、新しい外国人労働者の大量流入にもかかわらず、マイアミでは労働賃金への影響は認められなかった」『移民の経済学』ベンジャミン・パウエルp21

 ほかにもOttaviano and Peri(2008,2012)がおこなった分析などにより、「移民はアメリカ人労働者の賃金にほとんど影響を与えていない」ということがわかったのです。

 移民は財・サービスの消費者となり、総需要を押し上げます。そして課税ベースを拡大させる。納税者が増えることで、他の人びと(私たち日本人)の税負担が減る一方、教育や社会インフラの整備などで税が増えることはもちろんあります。でもそれは、移民に限ったことではありません。

 移民問題の違う側面として、国による公教育への支出、医療保険制度、公的年金などがあります。で、皆が問題とするのは移民の子どものことだと思います。移民、それ自体はすでに教育がいらないので政府による教育への支出はなくなりますが、子どもは別、移民の大量の子どもに公教育を受けさせなければならない。そのお金はどうするの? だって、まさか子どもから税金はとれないでしょ? ってなこと。しかし、議論がここでストップしてはいけません。その子どもたちが大人になって長期に支払う税収を織り込んでいないからです。移民が政府の財政赤字を増加させたとしても、長期的に見れば違う面によって相殺される(赤字が埋め合わせされる)ということです。

 また、次のような事実もあります、と最後引用して終わりにします。

「移民もアメリカの財・サービスの購入を通じて、経済の需要面を刺激する。その一例は、住宅・不動産市場である。不動産の供給は比較的非弾力的であることから、労働市場に比べて移民の影響を受けやすいからだ(Saiz 2003, p.20)。たとえば、ある都市の人口1%の増加は市全体の賃料の約1%の上昇につながっている(Saiz 2007, p.345)。予想外の人口増加があった場合、人口1%の増加や賃料を3.75%上昇させる。その結果、住宅価格が上昇し、固定資産税を通じて地方政府や州政府の税収も潤う(Saiz 2007, p.345)。さらに拡大した需要を満たそうとして建設投資も刺激される。ジェイコブ・ヴィグドーの推計によれば、アメリカへ入国した約4000万人の移民は、それぞれの地域で住宅一戸当たり価値を平均11.6セント上昇させ、アメリカの課税対象住宅の価値を3.7兆ドルも押し上げた(Vigdor 2013, p.2)」同前p55-56

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